宋人有閔其苗之不長而揠之者。芒芒然帰、謂其人曰、
「今日病矣。予助苗長矣。」
其子趨而往視之、苗則槁矣。
宋人に其の苗の長ぜざるを閔へて之を揠く者有り。茫茫然として帰り、其の人に謂ひて曰はく、
「今日病れたり。予苗を助けて長ぜしむ。」
と。其の子趨りて往きて之を視れば、苗は則ち槁れたり。
宋の国の人で、自分の苗が伸びないのを心配して引っ張った者がいた。疲れ果てた様子で帰宅し、その家の人に言ったことには、
「今日は疲れたなあ。私は苗を助けて生長させたよ。」
と。その家の子が(畑まで)走って行って苗を見たところ、苗はもう枯れていた。
古代中国で儒教創始期に書かれた「四書」(『大学』、『中庸』、『論語』、『孟子』)のひとつ。
孟子(紀元前372?-紀元前289)の言行録。
※書名と人名が同じなのでややこしい。ここでは、書名はカギ括弧付きの『孟子』で記載する。
孟子(人名)は孔子の孫・子思から儒教を学んだ。
『孟子』は①孟子本人がまとめたという説と、②その弟子がまとめたという説 両方がある。
孟子の思想は性善説だ。人は生まれながらに善であり、時として悪いことをするのは周りの良くない影響に依るとする。
これに対して、荀子の性悪説がある。こちらは、人間は放っておくと本能のまま生きてしまうので、学問で正していかないといけないという考え方(参考 : ☞『荀子』 人の性は悪なり)。後に、韓非などの法家思想(参考 : ☞『韓非子』 侵官之害)に繋がっていった。
性悪説も性善説も、「教育が重要である」という点では一致している点を理解しておこう。
父が「苗を助けて生長させた」と変なことを話すので、嫌な予感がしたから。
畑を見に行くと、父は苗の成長を心配するあまり引き抜いており、苗は枯れてしまっていた。
このことから、「助長」は悪い方に手助けしてしまうことを意味する故事成語となった。
孟子の唱えた「性善説」では、時として人が悪いことをするのは、周りの良くない影響に依ると説いている。
今回の苗も、自然のままにしておけばよく成長していたのに、変な手を加えてしまったために枯れてしまった。