二階の窓から

七言古詩
売炭翁ばいたんおう

白居易はくきょい

白文・書き下し 現代語訳 ノート

白文

売炭翁、
伐薪焼炭南山中
満面塵灰煙火色
両鬢蒼蒼十指黒

売炭得銭何所営
身上衣裳口中食
可憐身上衣正単
心憂炭賎願天寒

夜来城外一尺雪
暁駕炭車輾氷轍
牛困人飢日已高
市南門外泥中歇

翩翩両騎来是誰
黄衣使者白衫児
手把文書口称勅
廻車叱牛牽向北

一車炭重千余斤
宮使駆将惜不得
半疋紅紗一丈綾
繋向牛頭充炭直

書き下し文

売炭翁ばいたんおう
たきぎり炭を焼く 南山なんざんうち
満面の塵灰じんかい 煙火えんかの色
両鬢りょうびん蒼蒼そうそうとして 十指じっし黒し

炭を売りて銭をる 何の営む所ぞ
身上の衣裳 口中こうちゅうの食
憐れむべし 身上衣しんじょうい 正にひとえなるを
心に炭のやすきを憂へ 天の寒からんことを願ふ

夜来やらい 城外一尺の雪
暁に炭車にして 氷轍ひょうてつ
牛はつかれ人は飢ゑ 日すでに高し
市の南門なんもんの外 泥中でいちゅうやす

翩翩へんぺんたる両騎 来たるはたれ
黄衣こういの使者 白衫はくさん
手に文書をり 口にみことのりと称す
車をめぐらし 牛をしっして きて北へ向かはしむ

一車いっしゃの炭の重さ千余斤せんよきん
宮使きゅうし駆りて 惜しみ得ず
半疋はんびき紅紗こうしょう 一丈いちじょうあや
牛頭にけて 炭のあたい

※押韻:古体詩なので換韻(途中で韻を替えること)してもよい。
 ⇔ 近体詩(絶句、律詩)の場合は一韻到底いちいんとうてい(韻を1つで通すこと)がルールになっている
5回換韻している。
翁(ou)、 中(chu)
色(shoku)、 黒(koku)、 食(shoku)
単(tan)、 寒(kan)
雪(setsu)、 轍(tetsu) 、歇(ketsu)
誰(sui) 、児(ji)
勅(choku)、 北(hoku)、 得(toku)、 直(choku)


現代語訳

炭売りのおじいさん、
薪を切っては炭を焼いている、南山の山中で。
顔じゅう埃と灰をかぶり、すすけた色だ。
顔の左右の髪は白髪交じりで、手の指は真っ黒だ。

炭を売ってお金を稼ぐ、それでどうしようというのだ。
身にまとう服と、口にする食べ物を買うためだ。
気の毒なことに、身につけているのは、たった一枚の薄い着物だ。
心中では炭が安いことを憂い、寒くならないかと願っていた。

昨夜から、町の外では一尺の雪が降った。
夜明けに炭を積んだ車に牛を繋ぎ、凍った道で車を引いていく。
牛は疲れて人は腹が減り、日はもう高く上っている。
市場の南門の外の、ぬかるみで休憩を取った。

服を翻しながら走ってくる二騎、これは誰だろうか。
黄色い服を着た宮中からの使者と、白い着物の若い下役人だ。
手に書類を取って、口で「勅命だ」という。
車の向きを変え、牛を追い立てて、車を牽いて北へ向かわせる。

車一台の炭の重さは千斤(約60kg)だ。
宮中からの使者が追い立てるので、惜しむこともできない。
半疋の赤い薄絹と、一丈の綾織りの絹布を
牛の頭にくくりつけて、これを炭の代価に充てろ、と(使者はいう)。


作品

中唐の詩人、白居易はくきょい(772 - 846)の作。あざなは楽天。「白楽天はくらくてん」とも呼ばれる。
七言古詩。

炭売りのおじいさんが苦労して焼いた炭が、勅命により僅かな代価で取り上げられてしまった。その役人の横暴さを詠み上げた、社会風刺・批判の漢詩だ。

ノート

天の寒からんことを願ふ」のは何故?

寒くなれば炭を買う人が増え、炭の値段も上がるから。
炭売りのお爺さんの生活は苦しく、身につけているのはたった一枚の薄い着物だ。本当は寒くなってほしくないはずだが、炭の売れ行きをひたすら願う、苦しい状況が表現されている。

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文庫: 256ページ
出版社: 角川書店
ISBN-10: 4044072205
ISBN-13: 978-4044072209
発売日: 2010/12

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