二階の窓から

漢詩のルールと詩型


漢詩の歴史

 漢詩は、一定のルールを持った限られた字句で情景や想いを表現したものです。その歴史は『詩経しきょう』(しゅう代、紀元前7世紀頃)に遡り、唐の時代(西暦700年頃)に最盛期を迎えました。
 以下にその流れをまとめます。

時代主な詩集、形式、特徴

(前11~前3世紀)
詩経しきょう』がまとめられた。各地の民謡や周王朝の歌を中心とした、中国最古の歌集。
四言しごんの詩が中心。
素朴でおおらかな内容。押韻おういん、比喩の表現はこの時から確立。
漢・三国
(前3~3世紀)
楽府体がくふたい古詩が登場。盛んに古詩が作られる。
六朝りくちょう
(3~6世紀)
五言古詩七言古詩が確立。平仄ひょうそく対句ついくのルールも整理された。
初唐
(618~712)
近体詩絶句律詩)が確立。厳格に韻律が整うようになった。
主な詩人は 王勃おうぼつ楊炯ようけい盧照鄰ろしょうりん駱賓王らくひんのう など。
盛唐
(712~765)
漢詩の黄金時代。
主な詩人は 李白りはく杜甫とほ王維おうい など。
中唐
(766~835)
盛唐に続く時代。古詩への回帰なども見られた。
主な詩人は 柳宗元りゅうそうげん韓愈かんゆ白居易はくきょい など。
晩唐
(836~903)
唐の衰退期。唯美・退廃的。
主な詩人は 杜牧とぼく李商隠りしょういん など。
以降
宋・元・明・清…
以上いずれかの流れを汲んでいった。
中華民国
(1912~)
韻律を無視した白話はくわ(口語)詩を、文学として認める動き。
主な詩人は 朱自清しゅじせい魯迅ろじん など。

漢詩の種類

 大きく分けると、古体詩と初唐に成立した近体詩に分けられます。形式と主な特徴をまとめましょう。

詩体 形式 一句 句数 平仄ひょうそく 押韻おういん


四言古詩 4字 自由 自由 原則 偶数句末だが不定
換韻かんいんしてもよい
五言古詩 5字
七言古詩 7字
楽府体 不定


五言絶句 5字 4 一定 五言→偶数句末
七言→第一句末と偶数句末
一韻到底いちいんとうてい(換韻は不可)
七言絶句 7字
五言律詩 5字 8
七言律詩 7字
五言排律 5字 10以上の偶数
七言排律 7字

漢詩のルール

1. 押韻おういん

 句末に音読みで同じ響きの字を配置すること。韻を踏むともいいます。
 例として杜甫の五言古詩『石壕の吏』から取り上げて見てみましょう。

夜久語声
如聞泣幽
天明登前途
独与老翁

夜久しくして語声
泣きて幽するを聞くが如し
天明前途に登らんとして
独り老翁と

 赤字の3字を音読みすると、「絶」(zetsu)、 「咽」(etsu)、 「別」(betsu) となり、響きが同じことが分かります。
 書き下して訓読みすると、押韻は分かりません。また、日本語の音読みと当時の中国語の読みが異なり、押韻と判断できない場合もあります。

 古体詩では換韻(途中で韻を変えること)をしても良いですが、近体詩では一韻到底いちいんとうてい(1つの韻で通すこと)がルールです。

2. 平仄ひょうそく

 古代中国語には、以下の4つのイントネーションがあり、「平」と「仄」の2つに分けられます。

ひょう 平声へいせい」(平たい音)
そく 上声じょうせい」(尻上がりの音)
去声きょせい」(尻下がりの音)
入声にっしょう」(語尾がt,p,kなどの詰まる音)

 近体詩(絶句と律詩)では、平・仄の配列が厳密に決まっています。 こうすることで近体詩はよみやすく、また耳に入りやすくなっているのです。
 ただしこちらも書き下しでは判別ができません。 また、中国語のイントネーションは普通分からないため、漢字を見ただけで判別することが困難です。大学受験レベルでは意識しなくても良いでしょう。

3. 対句ついく

 前後の2句が、

  1. 対応する語の字数が等しい
  2. 句の文法的構造が同じ
  3. 意味の上で関連している

 以上3つの条件を満たす関係にあること。

 律詩では、 頷聯がんれん(第3、4句)と頸聯けいれん(第5、6句)を必ず対句にします。

 以下に対句の例を挙げましょう。杜甫とほ作の五言律詩「春夜雨を喜ぶ」より、第3~6句を引用しました。
 頷聯(第3句⇔第4句)と頸聯(第5句⇔第6句)が対句になっています。

対句の例。杜甫作、五言律詩『春夜雨を喜ぶ』より。

② 2つの句の文法的構造が同じ
随風」「潤物」、「入夜」「無声」 → 述語+目的語・補語
野径」「江船」 → 修飾語+名詞
俱黒」「独明」 → 副詞+形容詞

③ 意味の上で関連している
」「」は、どちらも雨が静かにしとしと降る様子を表している。
」「」は、野道の雲の暗さと船の火の明るさ という対比の関係にある。

また、「」(sei)、「」(mei)は押韻。

参考文献

桐原書店 『【基礎から解釈へ】漢文必携 改訂版』 (編:菊地隆雄 村山敬三 六谷明美)
東京書籍 『新総合 図説国語』 (監修:池内輝男 三角洋一 吉原英夫)
第一学習社 『新版二訂 新訂総合国語便覧』 (監修:稲賀敬二 竹盛天雄 森野繁夫)

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鷲野 正明
単行本: 144ページ
出版社: メイツ出版 (2019/4)
ISBN-10: 4780421594
ISBN-13: 978-4780421590

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