二階の窓から

和歌の修辞


和歌の表現技法として使われる、以下の10種類の「修辞」について説明します。全部知っていますか?

枕詞まくらことば

特定の言葉へ導くための前置きとなる言葉。

枕詞の例

わたの原 こぎ出でてみれば ひさかたの居にまがふ 沖つ白波

慣用的に用いられる主な枕詞は以下の通り。

主な枕詞一覧
枕詞→かかる言葉
あかねさす日・昼・紫・君
あきつしま大和
あさつゆの消え・おく・命
あしびきの山・峰・尾の
あづさゆみ引く・張る・射る・音・末
あまざかる日・鄙・向かふ
あまとぶや雁・軽・領巾ひれ
あらがねの土・地
あらたまの年・月・日・春
あをによし奈良
いさなとり海・浜・灘・湖
いそのかみ古・降る・振る
いはばしる垂水・滝
うつせみの命・世・人・身・空し
うばたまの黒・髪・闇・夜・夢・月
うまさけ三室・三輪・かみ
おきつものなばり・なびく
おほともの御津・高師
かきつばたにほふ・さき沼
かむかぜの伊勢
からころも着る・裁つ・紐・袖・裾
くさまくら旅・仮・むすぶ
くれたけの・ふし・世・夜
ささなみの近江あふみ・志賀・大津
さねかずらのちも逢ふ
さねさし相模
しきしまの大和
しろたへの衣・袖・袂・雲・雪
そらにみつ大和
たたなづく青垣
たたみこもへ・隔て・平群へぐり
たまかぎるほのか・夕・日
たまくしげふた・箱・み・明く
たまだすき懸け・畝火うねび
たまづさの使ひ・いもこと・通ふ
たまのをの長き・短き・絶ゆ
たまぼこの道・里・手向けの神
たまもかる敏馬みぬめ・沖
たらちねの母・親
ちはやぶる神・やしろうぢ・宇治
つがのきのつぎつぎに
つゆじもの消ゆ・おく
とりがなくあづま
なつくさのしげき・ふかく・野
にほどりのかづく・葛飾かつしか・なづさふ
ぬえどりの片恋・のどよふ
ぬばたまの黒・髪・闇・夜・夢・月
はるがすみ立つ・春日
ひさかたの天・雨・空・日・月・雲・光
ふゆごもり春・張る
みづぐきの岡・跡・かき・流れ
みづどりの鴨・浮き・立つ・憂き
むらぎもの
むらさきの匂ふ・名高し・心
もののふの八十氏やそうぢ川・宇治川・矢田・うぢ
ももしきの宮・大宮
ももづたふ八十やそ五十・渡る・津・石
やくもたつ出雲いづも
やすみししわが大君
やまかはのたぎつ・おと・あさ
やまのゐの飽く・浅き
ゆふづくよ暁闇あかときやみ・をぐらし
わかくさのつま・妻・にひ・若

序詞じょことば

* 枕詞と同じく、特定の言葉へ導くための前置きとなる語句だが、複数句に繋がる長いもの。

1.有心うしん(意味の関連) と 2.無心(音の関連) に分けられる。

1.有心うしんの序詞の例

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の長々し夜を ひとりかも寝む

2.無心の序詞の例

a) 同音反復によるもの。

住の江の 岸に寄る波さへや 夢の通ひ路 人目よくらむ

b) 掛詞への序詞。

立ち別れ いなばの山の 峰に生ふるまつ(松→待つ)とし聞かば 今帰り来む

掛詞かけことば

* 同音異義語を利用して、1つの言葉に2つ以上の意味を持たせる表現。

掛詞の例

花のいろは うつりにけりな いたづらに 我が身よにふる ながめせしまに

「ふる」 → 世に「経る」+「降る」長雨
「ながめ」 → 「長雨」+「眺め」

縁語えんご

互いに関連の深い語群を意図的に選んで用いる表現。

縁語の例

難波江かりね一よゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき

 まず、掛詞は以下の通り。
「かりね」 → 「刈り根」「仮寝」
「一よ」 → 「一節」「一夜」
「みをつくし」 → 「澪標」「身を尽くし」

 次に、縁語は以下の通り。
難波江」 → 「澪標」「わたる
」 → 「刈り根」「一節

本歌取ほんかど

既存の古歌の語句・趣向を意図的に取り入れて詠む表現。

本歌取りの例

み吉野の 山の秋風 さよふけて 故郷寒く ころもうつなり

 この歌は、以下の古歌をベースに詠まれた。

み吉野の 山の白雪 つもるらし 古里寒く なりまさるなり

 語句・趣向は似通っているが、雰囲気がかなり異なる。 詳しい解説は百人一首 094 みよしのゝ を参照。

体言たいげん止め

歌の末尾に体言(名詞)を用いること。

体言止めの例

朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木

句切くぎ

結句以外の句で一旦終止すること。

句切れの例

契りきな/かたみに袖を しぼりつゝ 末の松山 なみこさじとは

 「な」は、感動の終助詞なので終止(=句切れ)している。1句めで切れているので、「初句切れ」。

見立みた

ある事柄を別の事柄に例える比喩的表現。人間に例えている場合、擬人法になる。

見立ての例

白露に 風のふきしく 秋の野は つらぬきとめぬ ぞちりける

 草の葉についた「白露」を「(真珠の)玉」に見立てた表現。

歌枕うたまくら

和歌にしばしば詠まれる景勝地のこと。

歌枕の例

淡路島 かよふ千鳥の なく声に 幾夜寝覚めぬ 須磨の関守

 「須磨」といえば、『源氏物語』で光源氏が都を退き侘び住まいをしていた場所。寂しい・哀れなイメージが定着していた。

隠題かくしだい

折句おりく

各句の頭に仮名5文字の言葉を織り込んで歌を作ること。

折句の例

ら衣 つつなれにし ましあれば るばるきぬる びをしぞ思ふ

 頭の5文字で「かきつばた」(花の名前)を詠み込んでいる。

物名もののな

物事の名前を一見分からないように取り入れて詠み込むこと。

物名の例

山高み つねのあらしの 吹くさとは にほひもあへず 花ぞ散りける

 「嵐の吹く里」という言葉の中に「しのふくさ(忍ぶ草)」を隠している。

参考文献

東京書籍 『新総合 図説国語』 (監修:池内輝男 三角洋一 吉原英夫)
第一学習社 『新版二訂 新訂総合国語便覧』 (監修:稲賀敬二 竹盛天雄 森野繁夫)

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ISBN-10: 4053016215
ISBN-13: 978-4053016218

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