二階の窓から

百人一首 094 みよしのゝ


みよしのゝ 山の秋風 さよふけて
故郷さむく ころもうつなり

参議雅経さんぎまさつね

品詞分解

よしの
吉野
接頭 格助
美称 奈良の地名。
やま あきかぜ
秋風
格助
 
ふ  
更け
接頭 接助
カ下二
(連用形)
ふるさと さむ  
故郷 寒く
形ク
(連用形)
ころも う  
打つ なり
助動
タ四
(終止形)
伝聞推定
(終止形)

現代語訳

吉野の
山の秋風が
夜が更けた感じの音を立てて吹き、
故郷(=吉野)は寒く
衣を打つきぬたの音が聞こえてくるようだ。

※砧:布地を柔らかくしたり艶を出したりするために使う木の棒。

作品の解説

出典新古今集しんこきんしゅう』秋下・483

冬の訪れを予感させる寂しい秋風の中を、澄んだきぬたの音が響きわたる情景が、美しく見事に浮かんでくる歌だ。

坂上是則さかのうえのこれのりの以下の歌を本歌取りしている。

み吉野の 山の白雪 つもるらし
古里寒く なりまさるなり

『古今集』 冬・325

【現代語訳】
吉野の山の白雪はきっと積もっているに違いない。
古里はますます寒くなっていることだ。

ちなみに、坂上是則といえば百人一首の31番「あさぼらけ 有明の月と 見るまでに よしのの里に ふれるしら雪」の作者でもある。

題材はそっくりなのだが、以下の2点で独自性を出している。

坂上是則(元) → 参議雅経
@ 季節
(白雪)

(秋風)
A 感覚 視覚
(雪が積もった光景)
聴覚
(秋風の音、砧の音)

とくに、きぬたの音を取り入れた点が素晴らしい。
「砧」とは、衣服を叩くための木のことだ。 これは漢詩の世界でも夫の帰りを待つ妻の生活の表現として用いられている。李白の漢詩を引用しよう。

子夜呉歌しやごか

長安 一片の月
万戸 衣を打つの声
秋風 吹いて尽きず
すべこれ 玉関ぎょっかんの情
いづれの日か 胡虜こりょを平らげて
良人 遠征をめん

李白

【現代語訳】
長安にぽつんと月が浮かんでいる
あちこちの家から、衣を打つ音が聞こえる
秋風は吹き止まない
これは玉関ぎょっかんに遠征している夫を想う妻の気持ちの表れだ
いつになったら北方を平定して
夫は遠征をやめて帰ってくるのだろうか

作者

参議雅経さんぎまさつね(1170 - 1221)

飛鳥井あすかい雅経。刑部卿・難波頼経の次男。
1201年に和歌所寄人となり、『新古今集』の撰者のひとりともなった。和歌・蹴鞠の名家 飛鳥井家の初代当主。

『新古今集』以下の勅撰集に134首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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