二階の窓から

百人一首 093 世の中は


世中は つねにもがもな なぎさ漕ぐ
あまのをぶねの 綱手かなしも

鎌倉右大臣かまくらのうだいじん

品詞分解

なか
格助 係助
 
つね  
常に もが
形動 終助 終助 終助
(連用形) 願望 詠嘆 感動
なぎさ こ  
漕ぐ
ガ四
(連体形)
あま をぶね
海士 小舟
格助 格助
つなで
綱手 かなし
形シク 終助
(終止形) 詠嘆

現代語訳

世の中は
常に(不変で)あってほしいなあ。
渚を漕いでゆく
漁夫の小船の
綱手を引いてゆく様子がしみじみと感じられるよ。

作品の解説

出典新勅撰集しんちょくせんしゅう』羈旅・525

全体を見ると「何のことやら?」という歌だが、まずは作者・征夷大将軍の源実朝の人生を追ってみよう。

源実朝は、鎌倉幕府を開いた頼朝の次男だ。兄の頼家が追放された際に、12歳で征夷大将軍となったのだが、28歳のときに、頼家の子に暗殺されてしまった。
権力闘争の中で常に死の予感と隣り合わせだった実朝は、永久不変の世の中への願望が強くあっただろう。
その悲劇的な運命に思いを馳せて、百人一首の撰者・藤原定家はこの歌を選び入れたのかもしれない。

さて、この歌は2つの歌を本歌取りした(下敷きにした)ものだ。

川のの ゆつ岩群いはむらに 草さず
常にもがもな 常処女とこをとめにて

『万葉集』22

【現代語訳】
川のほとりの神聖な岩には草も生えていない。
常に不変であってほしいなあ。永遠の乙女として。

みちのくは いづくはあれど 塩竃の
浦漕ぐ舟の 綱手かなしも

『古今集』陸奥歌・1088

【現代語訳】
陸奥はどこも良いところがあるけれど、(その中でも)塩釜の
浦を漕ぐ舟に綱をかける光景がしみじみと素晴らしいよ。

どちらの本歌にも悲嘆の意味合いは含まれておらず、その場所や光景の素晴らしさへの感動が詠み上げられている。 それゆえに、『新勅撰集』では羈旅きりょの歌の中に配列されている。
しかし、作者・実朝の人生を顧みると、「無常の世の中を生きていかなければいけない悲嘆」が見え隠れする。

作者

鎌倉右大臣かまくらのうだいじん(1192 - 1219)

源実朝。源頼朝の次男で、第三代鎌倉将軍。
28歳のときに、甥の公暁くぎょうに暗殺された。

京の文化に憧れ、和歌・蹴鞠を好んだ。後生、正岡子規によって万葉調の歌人として称えられた。
『新勅撰集』以下の勅撰和歌集に93首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
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