二階の窓から

百人一首 083 世の中よ


世の中よ みちこそなけれ おもひ入る
やまのおくにも 鹿ぞなくなる

皇太后宮大夫俊成くわうたいこうぐうのだいぶしゆんぜい

品詞分解

なか
格助 間投助
感動・強調
みち な   
こそ 無けれ
係助 形ク
強意 「こそ」の結び(已然形)
おも   い  
思ひ 入る
ハ四
(連用形)
ラ四
(連体形)
やま おく
格助 格助 係助
場所
しか な  
鹿 鳴く なる
係助 助動
強意 カ四
(終止形)
伝聞推定
「ぞ」の結び(連体形)

現代語訳

世の中というのは まあ、
逃れ道というのは無いのだなあ。
深く思い込んで
(分け入ってきた)山の奥でも、
(憂きことがあるのか、もの悲しく)鹿が鳴くらしいなあ。

作品の解説

出典千載集せんざいしゅう』雑中・1151

「道こそなけれ」(世の中に逃げ道は無いのだなあ)、というのがこの歌の主題だ。
世の中の悲しいことから逃げようと思い詰めて、山奥までやってきたのに、その山奥でも鹿が悲しい声で鳴く。
悲しいことからはどこに行っても逃げられない、そんな余情を詠み上げた歌だ。

藤原俊成は数多くの和歌を詠み、勅撰集にも多く入集しているが、この歌は本人が撰者を務めた『千載集』にも自ら選び入れている自信作だ。
ちなみにこの歌は俊成が二十代の若い頃に詠まれた。 当時は戦乱の時代で、俊成は出家を考えていたという。
結局俊成は出家しなかったのだが、鹿の声を聞いて「出家をしても逃げ道は無いなあ」と思い直したのかもしれない。
ちなみに、もしこのとき俊成が出家していたら、その子である藤原定家も生まれていなかった

他にも俊成本人が気に入っていたのは

夕されば 野辺の秋風 身にしみて
うづら鳴くなり 深草の里

などがある(☞『無名抄』深草の里)のだが、
定家としては、俊成の人生史にかかわるということもあって、『世の中よ〜』のほうを百人一首に選んだのだろうか。

作者

皇太后宮大夫俊成こうたいこうぐうのだいぶしゅんぜい(1114 - 1204)

藤原俊成としなり。 定家の父親で、『千載集』の撰者。
63歳で出家して釈阿しゃくあと号した。
勅撰集には418首入集しており、これは藤原定家・紀貫之に続いて3番目に多い。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
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