二階の窓から

百人一首 082 思ひわび


思ひわび さてもいのちは ある物を
うきにたへぬは なみだなりけり

道因法師だういんはつし

品詞分解

おも  
思ひ わび
ハ四
(連用形)
バ上二
(連用形)
いのち
さて
係助 係助
そのまま。
そういう状態で。
 
ある ものを
接助
ラ変
(連体形)
逆接
う   た  
憂き 堪へ
形ク 格助 助動 係助
「憂し」
(連体形)
ハ下二
(未然形)
打消「ず」
(連体形)
なみだ
なり けり
助動 助動
断定
(連用形)
詠嘆
(終止形)

現代語訳

(長年つれない人を)思い慕うことに疲れて、
それでも命は
繋いでいるというのに、
辛さにこらえられないのは
涙であることだなあ。

作品の解説

出典千載集せんざいしゅう』恋3・818

単純に解釈すれば、思い通りにならない恋のつらさをしみじみと詠んだ歌だ。

定家は元々あまりこの歌を評価していなかったようで、『八代抄』(1215年頃成立。定家が50歳過ぎの頃の撰)をはじめ、秀歌撰には選び入れてこなかった。
しかし定家が晩年になって『百人一首』には選び入れた。これには2つの理由が考えられる。

まず、道因法師は、90歳を過ぎて耳が遠くなっても歌会に出席し続けた、言ってみれば「和歌大好きじいさん」として有名だった。
和歌の数奇人として、この人は『百人一首』から外すわけには行かなかったという事情があっただろう。(つまり道因法師という人がまず選ばれたということ)

また、この歌は昔を振り返る述懐調でもある。
晩年になって過去の恋を振り返る、そんな雰囲気もあり、晩年の定家の心に響いたのかもしれない。

作者

道因法師どういんほっし(1090 - 没未詳

藤原敦頼あつより
1172年に出家。 1179年の『右大臣家歌合』に90歳で出席した記録があり、まもなく逝去したと思われる。
晩年まで和歌に執着しつづけ、歌の神として信仰されていた住吉大社(現在の大阪市住吉区)にしばしば参詣していたという。

『千載集』以下の勅撰集に41首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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