二階の窓から

百人一首 069 あらし吹く


あらし吹く 三室の山の もみぢばは
竜田の川の にしきなりけり

能因法師のういんほつし

品詞分解

ふ  
あらし 吹く
【嵐】 カ四
(連体形)
みむろ やま
三室
格助 格助
 
    ば
もみぢ葉
係助
 
たつた かわ
竜田
格助 格助
 
にしき
なり けり
助動 助動
断定
(連用形)
詠嘆
(終止形)

現代語訳

嵐が吹き荒れる
三室山の
もみじの葉は、
(竜田川に流れていって)竜田川の
錦になっているなあ。

作品の解説

出典後拾遺集ごしゅういしゅう』秋下・366

三室山で散って竜田川に流れ込んだ紅葉を、川の表面を彩る「錦」に見立てた歌。

百人一首を1番から順番に勉強してきた方の中には、「おや? なんだかデジャブだな……」と思った方もいるかもしれません。(もしそう思ったら鋭い!)
在原業平ありわらのなりひら☞ 17番 『ちはやぶる』 と酷似しています。
こちらは「紅葉が、竜田川の水を真っ赤にくくり染めにしている」という歌です。
場所とシチュエーションが同じで、見立て方もそっくりですね。

ここで「竜田川」→「くくり染め」「錦」に繋がる理由を補足しておきましょう。
「たつたがわ」の「たつ」→「(布を)」と読むと、「染める」「」はどちらも縁語になるからです。

さて、こうやって竜田川を流れる紅葉を詠み上げた歌が2つ出てきたわけですが、
在原業平の「17番 ちはやぶる〜」歌の方は平安初期の歌であるのに対して、能因法師の「69番 あらし吹く〜」歌は平安末期の歌です。
正直なところ平安末期には、他のものに見立てて詠み上げるという手法は陳腐化してしまっており、能因法師の歌はどうも古くさいし技巧にも凝っておらず、評判が芳しくなかったようです。

ではなぜこの歌が百人一首に選ばれたのか?
能因法師自体は、勅撰集に65首入集するなど歌人として有名だったので、まず人物が選ばれたと言えるでしょう。
能因歌の中からこの歌が選ばれたのは、撰者・定家の好みなのか……。真相はよく分かりません。

作者

能因法師のういんほつし(988 - 1051?)

出家前の俗名は橘 永トたちばなのながやす。近江守・橘忠望の子。

文書生として肥後進士と号したが、26歳で出家。
和歌は藤原長能ふじわらのながとうに師事し、奥州などの諸国を旅しながら数多くの歌を残した。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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