二階の窓から

百人一首 070 さびしさに


さびしさに 宿を立出て 詠むれば
いづくもおなじ あきのゆふぐれ

良暹法師りやうぜんほつし

品詞分解

さび   
寂しさ
格助
 
やど た   い  
宿 立ち 出で
格助 接助
タ四「立つ」
(連用形)
ダ下二「出づ」
(連用形)
なが   
詠むれ
接助
マ下二「詠む」
(已然形)
おな  
いづく 同じ
代名 係助 形シク
【何処】 (連体形)
あき ゆふぐ  
夕暮れ
格助
※体言止め

現代語訳

寂しさに(耐えられず)
庵を立ち出て
あたりを見渡すと
どこも同じ
(寂しい)秋の夕暮れだなあ。

作品の解説

出典後拾遺集ごしゅういしゅう』秋上・333

秋の夕暮れの寂しさを率直に詠み上げた歌。
寂しさを紛らすために、思い立って庵を出たが、どこも寂しい秋の夕暮れが広がるばかり…という状況だ。

『枕草子』と「秋の夕暮れ」

実は「秋の夕暮れ」という語は、『万葉集』(760〜780年頃成立)には用例がありません
和歌の世界では、平安後期以降に流行りだした言葉ということになります。

「秋」と「夕暮れ」と言えばなんとなく似つかわしいように思いますが、これは清少納言の『枕草子』(1001年頃成立)に登場する「秋は夕暮れ。」が流行した影響が大きいのです。
「秋の夕暮れ」は、勅撰ちょくせん和歌集では『後拾遺集』(1086年成立)から登場する言葉です。
※ちなみに、『後拾遺集』の前の勅撰集『拾遺集』は1005年頃成立。

ちなみに「春のあけぼの」も同様に『後拾遺集』から登場します。
平安貴族にとって、『枕草子』は非常に影響が大きかったことがよく分かります。

作者

良暹法師りょうぜんほっし(生年未詳-1064?)

天台宗祇園別当を務めた。 歌人としては、橘俊綱の伏見山荘へしばしば訪れて和歌の会に参加していた。
橘為仲・素意法師らとも親交があったようだ。
晩年は山城国の大原(京都大原三千院などで有名)に籠った。

『後撰集』以下勅撰集に31首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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