二階の窓から

百人一首 047 やへ葎


やへ葎 しげれる宿の さびしきに
人こそ見えね あきは来にけり

恵慶法師ゑぎやうほふし

品詞分解

やへむぐら
八重葎
蔓性の雑草。
しげ   やど
繁れ 宿
助動 格助
ラ四
(已然形)
存続
(連体形)
同格
さび   
寂しき
形シク 格助
(連体形)
ひと み  
こそ 見え
係助 助動
強意 ヤ下二
(未然形)
打消
「こそ」の結び(已然形)
あき
けり
係助 助動 助動
カ変
(連用形)
完了
(連用形)
詠嘆
(終止形)

現代語訳

葎が幾重にも
生い茂っている
寂しい宿に
人は誰もやって来ないけれど、
秋はやって来たなあ。

ポイント

同格の「の」

第二句の最後の格助詞「の」は、同格の「の」だ。
現代語でいうと、「で」。下にも同じ語に修飾する語が続く。

八重葎しげれる宿さびしきに
の場合、「宿」に修飾する語がその後に続いている。
八重葎が茂っている宿、寂しい(宿)に
ということ。

作品の解説

出典『拾遺集』秋・140

・葎がぼうぼうと生えている
・人が誰もやって来ない
・秋のおとずれ

の3重の寂しさを詠み上げた歌である。

この歌の要となるのは『人こそ見えね』の1句だ。
人間は誰もやって来ないが、自然の秋はちゃんとやって来る、という対比が深い感慨とともに詠われている。

詞書によると、河原院にて詠まれた歌。
河原院といえば河原左大臣こと源融(☞『14番 みちのくの』の作者)の邸宅であったが、左大臣の没後は荒れ果ててしまった。
当時は恵慶が親しくしていた安法法師が住んでおり、河原院によく出入りしていたようだ。

作者

恵慶法師ゑぎやうほふし(生没年未詳)

『拾遺集』時代、980年〜1000年頃に活躍。
源重之・紀時文・平兼盛などとも親交があり、特に安法法師の住む河原院に集まる歌人達とよく交流していた。
勅撰集には56首入修している。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
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