二階の窓から

百人一首 046 由良のとを


由良のとを 渡る舟人 かぢをたへ
行衛もしらぬ 恋のみちかな

曾禰好忠そねのよしただ

品詞分解

ゆら
由良
格助 格助
(紀州・淡路島間の
由良瀬戸)
【門】
(水の)出入口。海峡。
わた   ふなびと
渡る 舟人
ラ四
(連体形)
た  
かぢ 絶え
格助
【楫・舵】 ヤ下二
(連用形)
ゆくへ し  
行衛 知ら
係助 助動
主格 ラ四
(未然形)
打消
(連体形)
こひ みち
かな
格助 終助
感動

現代語訳

(流れが速い)由良の瀬戸を
渡る舟人が
かいを無くして
行方も知らないように、
私も同じように行方が分からない恋路であるよ。

作品の解説

出典『新古今集』恋1・1071

舟人の様子を詠った上三句から、趣深い情景が思い浮かぶ。
櫂を失った舟人から、思っている人を失ってしまった自分の恋へと結びつけている。

ちなみに「由良」の場所について、現代語訳では紀伊半島と淡路島の間の由良瀬戸(友ヶ島水道)としたが、
契沖(江戸時代)など、丹後(京都府の北部)の由良とする説が出てきた。 これは作者の好忠が丹後掾を勤めていたためである。
作者がどこを詠んでいたのかはともかくとして、百人一首が編まれた当時は、紀伊の由良には波の荒い湊のイメージが持たれていた。新古今集で紀伊の由良を詠った歌を一首引用しよう。

きのくにや 由良の湊に 拾ふてふ
たまさかにだに 逢ひ見てしかな

<現代語訳>

紀の国の 由良の湊で 拾うという
真珠の玉ではないが、たまにでもいいので 逢いたいなあ。
(『新古今和歌集』 恋1より 藤原長方)

舟人という言葉も相まって、当時の受け手は皆「由良→波の荒い湊がある紀伊の由良 だな…」と考えていたことだろう。

作者

曾禰好忠そねのよしただ(生没年未詳 -1003?)

歌人としての才能は高かったが、性格が片意地で偏狭だったようで、社会的には不遇だった。
円融上皇の御幸のとき、呼ばれもしないのに強引に参上して追い返されてしまった話(『今昔物語集』に掲載)などからも、その変わった性格が窺えよう。

万葉集の古語を用いつつ斬新な歌を詠むなどしていたことで、平安時代後期の革新歌人からの再評価を受けた。
勅撰集に89首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
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