陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに
みだれそめにし 我ならなくに
みちのく | の |
名 | 格助 |
【陸奥】 |
しのぶ | もぢずり |
掛詞【動+名】 | 名 |
バ四【偲ぶ】(連体形) +【信夫】 |
【捩摺り】 |
たれ | ||
誰 | ゆゑ | に |
代名 | 名 | 格助 |
【故】 |
みだ | |||
乱れ | そめ | に | し |
動 | 動 | 助動 | 助動 |
ラ下二 (連用形) |
マ下二「染め」 +「初め」(連用形) |
完了 (連用形) |
過去 (連体形) |
われ | ||||
我 | なら | な | く | に |
代名 | 助動 | 助動 | 接尾語 | 接助 |
断定 (未然形) |
打消「ず」 (未然形) |
体言化 | 逆接 |
陸奥の国の
信夫捩摺り(の乱れた染め模様のように)
誰のせいであろうか、
(私の心は)乱れそめてしまった。
(原因は)私ではないのになあ。(あなたのせいだ)
出典『古今和歌集』恋4・724
「しのぶもぢずり」とは「信夫捩摺り」と書き、陸奥国 信夫郡(現在の福島県福島市周辺)の特産品、シノブ草の茎や葉の色素を布に擦りつけてつくったねじれ模様のこと。
この信夫捩摺りのねじれ模様についての言及は、第四句の「乱れ」につなぐための序詞である。第三句以降で、自分の心が乱れた原因である女をなじっている。
序詞・掛詞を使いこなし、高ぶる感情を巧みに表現した歌として当時評判となっていたようで、☞『伊勢物語』の第一段に登場する「春日野の 若紫の すり衣 しのぶの乱れ 限り知られず」は明らかにこの歌を下敷きにして詠まれたものである。
河原左大臣 (822-895)
源 融。六条河原院(本人の邸宅)を造営したため、河原左大臣と呼ばれた。六条河原院の池庭は、陸奥塩釜の風景を模して作られたといわれ、紀貫之の歌にも登場する。宇治にも別荘を造り、これがのちの平等院へと繋がった。
嵯峨天皇の子で、嵯峨源氏融流の初代にあたる。『源氏物語』の主人公、光源氏のモデルの一人ともされる。