二階の窓から

013 つくばねの


つくばねの 峰より落る みなの川
こひぞつもりて 淵となりぬる

陽成院やうぜいゐん

品詞分解

つくばね
格助
【筑波嶺】
みね お   
より 落(つ)る
格助
タ上二
(連体形)
みなの川
【水無乃川/男女川】
こひ つもり
係助 接助
【恋】 強意 ラ四
(連用形)
ふち
なり ぬる
格助 助動
ラ四
(連用形)
完了
「ぞ」の結び(連体形)

現代語訳

筑波嶺の
峰から(流れ)落ちる
水無乃川(が積もり積もって淵となるように)
この恋も積もり積もって
(深い想いの)淵になってしまったよ。

ポイント

つくばの より落る〜
の「」は「嶺」、つまり山の頂上・峰のこと。そのあとにまた「」ときている。このように、同じ意味の言葉を重ねて詠むことを重詞かさねことばという。

作品の解説

出典『後撰集』恋3・776

綏子すいし内親王(光孝天皇の皇女)に対する恋を詠った歌で、ほのかに思い初めた気持ちがどんどん積もっていくさまを、僅かな水が積もってできた川の淵にたとえている。

上の句の自然の景色から、下の句の恋の気持ちの表現へ一気に移している。とても鮮やかだ。

ところで、当時の天皇は基本的に平安京(京都)にいたので、筑波山(茨城)を見ることはまず無かった。 歌枕として、幻想の中の存在でしかなかったのだ。
そういうわけで、「峰」(見ね)という言葉と、重詞かさねことばでのセットになるようになった。
実景を元にした表現ではなく、むしろ想像の中での雄大な光景、というイメージだろうか。

作者

陽成院やうぜいゐん (868-949)

名は貞明さだあきら。清和天皇の皇子で、第57代天皇(在位878-884)。元良親王の父。
幼時から乱行が絶えず、宮中での殺人事件に関与した疑いによりわずか17歳で退位した。乱行の原因は脳病だったという説もある。
陽成院の和歌は、勅撰和歌集には1首しか登場せず、当時あまり注目されては来なかった歌人であったが、それにも拘わらず百人一首に選び出されたのは、元良親王(☞20番 わびぬれば の作者)の父であったからであろう。百人一首は、親子で一緒に選ばれているケースが多く、実に18組(36首)に及ぶ。

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