人はいさ こゝろもしらず 故郷は
はなぞむかしの かに匂ひける
ひと | ||
人 | は | いさ |
名 | 係助 | 副 |
さて。 →「知らず」と呼応 |
こゝろ | し | ||
心 | も | 知ら | ず |
名 | 係助 | 動 | 助動 |
ラ四 (未然形) |
打消 (終止形) |
ふるさと | |
故郷 | は |
名 | 係助 |
(旧都、奈良のこと。) |
はな | むかし | ||
花 | ぞ | 昔 | の |
名 | 係助 | 名 | 格助 |
か | にほ | ||
香 | に | 匂ひ | ける |
名 | 格助 | 動 | 助動 |
ハ四 (連用形) |
詠嘆 「ぞ」の結び(連体形) |
あなたの方はさてどうだか、
お気持ちも知らない。
(だが、)故郷の奈良では
花(=梅)は昔のままの
香りで咲き匂っているなあ。
出典『古今和歌集』春上・42
詞書(和歌の前につける説明の文章)には以下のようにある。
はつせ(=長谷寺)にまうづるごとにやどりける人の家にひさしくやどらで、程へて後にいたりければ、かの家あるじ『かくさだかになむやどりはある』と言ひいだしてはべりければ、そこにたてりける梅の花を折りてよめる
つらゆき<現代語訳>
奈良 初瀬の長谷寺にお参りするたびに泊まっていた人の家に長らく泊まっていなくて、しばらく経ってから訪問したところ、その家の主人が『こうやって確かに泊まる場所はあるのに。』と中から言っているので、そこに立っていた梅の花を折って詠んだ。
昔なじみの人(女性?)と交わした挨拶として贈った歌ということになる。
奈良の梅の美しい風景・香りを歌い込んだ余情に富む歌だ。
紀貫之(生年未詳 872? - 945)
あまりにも有名な人物であろう。
三代集(古今集・後撰集・拾遺集)時代最大の歌人。 『古今和歌集』の102首をはじめ、勅撰和歌集に合計約450首が選ばれている。
『古今和歌集』の撰者となり、紀友則の死後は中心的人物となり905年に完成させた。 貫之が仮名で記した序文『仮名序』は歌論の先駆けである。
散文でも『☞土佐日記』などの著を残した。