二階の窓から

021 今こむと


今こむと いひしばかりに 長月の
有明の月を まちいでつるかな

素性法師そせいほふし

品詞分解

いま
助動 格助
カ変
(未然形)
意志
(終止形)
い  
言ひ ばかり
助動 副助 格助
ハ四
(連用形)
過去
(連体形)
限定
ながつき
長月
格助
【旧暦9月】
ありあけ
有明
格助 格助
夜更けに出ている月(月齢20日頃)
ま   い  
待ち 出で つる かな
助動 終助
タ四
(連用形)
ダ下二
(連用形)
完了
(連体形)
詠嘆

現代語訳

やがて行こうと
(あなたが)言ったばっかりに、
(それを当てにして毎晩待っているうちに秋も更けてしまい)
旧暦9月の有明の月(が出るの)を
待ち明かしてしまったよ。

作品の解説

出典『古今和歌集』恋4・691

「今来むと」というのは、(あなたが)「やがてやって来る」という意味なので、この歌は待っている側(=女)の立場で詠まれたということになる。

待っていた期間については
@「一晩待っているうちに、有明の月が出てきた」という説
A「月単位で待っているうちに、有明の月が出る日になってしまった」という説
の2つの説があるが、定説はA。

今こむといひし人を、月ごろ待つ程に、秋も暮れ、月さへ在明ありあけになりぬとぞよみ侍りけん。こよひばかりは猶ほ心づくしならずや。
(藤原定家・『顕註密勘けんちゅうみっかん』)

撰者とされる藤原定家はAのように、ただ一晩だけではなく何日も待ち明かしたのだと解釈した上で、この歌を「心づくし(感傷的で風韻に富む)」と評価している。

作者

素性法師そせいほふし生没年未詳

僧正遍昭(☞12番 あまつかぜの作者)の子。三十六歌仙の一人。
父の薦めで兄の由性とともに出家し、雲林院に住んでいた。宇多天皇の気に入られ、歌合わせにしばしば招かれた。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
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