二階の窓から

『古今和歌集』仮名序より
やまと歌

紀貫之

原文 現代語訳 ノート

原文

 やまと歌は、人の心をたねとして、よろづの言のとぞなれりける。世の中にある人、ことわざしげきものなれば、心に思ふことを、見るもの、聞くものにつけて言ひいだせるなり。
 花に鳴くうぐひす、水にすむかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける。
 力をも入れずして、天地あめつちを動かし、目に見えぬ鬼神おにがみをも、あはれと思はせ、男女をとこをんなの仲をもやはらげ、たけ武士もののふの心をもなぐさむるは歌なり。


現代語訳

  和歌は、人の心を根源として、様々な言葉になったものだ。世の中に生きている人は、いろいろな出来事や行動が多いものなので、その時々心に思うことを、見る物や聞く物にかこつけて、(和歌で)表現する。
  花(=旧暦での春の花、つまり梅)に鳴く鶯や、清流に住む蛙の声を聞くと、命を持った生き物で、歌を詠まないものがあろうか。(いや、生き物はみな何か歌を詠むのだ。)
  力を入れもしないで天や地を動かし、目に見えない霊や魂をも感じ入らせ、男女の仲を和やかにさせ、勇猛な武士の心をも心和やかにさせるのは、和歌なのだ。


作品

古今和歌集こきんわかしゅう

905年、醍醐だいご天皇の勅命ちょくめい(天皇の命令)により作られた、日本初の勅撰ちょくせん和歌集。 約1,100首を収める。
撰者は紀友則きのとものり紀貫之きのつらゆき凡河内躬恒おおしこうちのみつね壬生忠岑みぶのただみね

歌のテーマ毎に

・ 春 上、下
・ 夏
・ 秋 上、下
・ 冬
・ 賀(お祝い、長寿を祈る歌など)
・ 離別
羈旅きりょ(旅情を詠んだ歌)
物名もののな(物の名前を言葉遊びで詠み込んだ歌)
・ 恋 1〜5
哀傷あいしょう(人の死を悲しむ歌。挽歌)
雑歌ぞうか 上、下
雑体ざってい(長歌など)
大歌所御歌おおうたどころおおんうた(宮中で行われる「大歌」での歌)

の計20巻に分けてまとめられた。 この分類は、以降の勅撰和歌集にも引き継がれていった。

『万葉集』が素朴で力強い「丈夫振ますらおぶり」であったのに対して、『古今和歌集』は繊細で技巧的な「手弱女振たおやめぶり」と評される。
掛詞、縁語、比喩などの表現技法が駆使されており、芸術性を追求した歌が多いのが特徴だ。


ノート

原文は紀淑望きのよしもちが記した『☞ 真名序』という説が有力。内容はほぼ同じ。

縁語による表現

植物に例えた比喩を2つ(「種」と「葉」、縁語)使っている。

人の心をとして、よろづの言のとなる

対句による表現

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高田 祐彦(訳)
文庫: 591ページ
出版社: 角川学芸出版 (2009/6/25)

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