二階の窓から

百人一首 096 花さそふ


花さそふ あらしの庭の 雪ならで
ふり行ものは 我身なりけり

入道前大政大臣にふだうさきのだいじやうだいじん

品詞分解

はな
さそふ
ハ四
(連体形)
には
あらし
格助 格助
ゆき
なら
助動 接助
断定
(未然形)
打消
ゆ  
ふり 行く もの
動【掛詞】 格助
「降る」(ラ四・連用形)
+「古る」(ラ上二・連用形)
カ四
(連体形)
主格
なり けり
格助 助動 助動
連体修飾 断定
(連用形)
詠嘆
(終止形)

現代語訳

桜の花を誘って散らす
嵐が吹く庭の
降り注ぐ桜吹雪ではなく、
年老いてしまったのは
この私なのだなあ。

作品の解説

出典新勅撰集しんちょくせんしゅう』雑1・1052

桜の花が舞い散る様子を見て詠んだ歌だ。
「ふる」の掛詞が素晴らしい。 「降る」(舞い散る)桜から、「古る」(老いぼれる)我が身の嘆きへと導いている。

前半は絢爛たる桜吹雪の光景だが、後半では一転して、死を予感させる 雪のような白髪の老人の様子が思い浮かぶ。
作者・入道前太政大臣(西園寺公経さいおんじきんつね)は鎌倉幕府との結びつきも強い公家で、贅沢な暮らしをしていた。
連日贅沢三昧をする中で、ふと老い・死への恐怖を感じたのだろうか。

さて、西園寺公経の歌は、藤原定家の秀歌撰には選び入れられていない。定家は公経をあまり評価していなかったようだ。
にも関わらず、この歌を百人一首に入れたのには、以下の2つの理由があると思われる。

  1. 親幕府の権力者として、政治的な考慮が働いた
  2. 晩年の定家が、「死への恐れ」を見事に詠み上げたこの歌に共感した

作者

入道前太政大臣にゅうどうさきのだいじょうだいじん(1171 - 1244)

西園寺公経さいおんじきんつね。内大臣・藤原実宗ふじわらのさねむねの子。
源頼朝の姪・一条全子を妻としており、鎌倉幕府と密接な関わりを持った。

承久の乱の際は、事前に情報を掴んで幕府に密告。幕府の勝利に貢献し、以降は絶大な権力を持った。
政治的な処世術に長けていたが、それが原因でやっかまれることも多かったようだ。

和歌については、家集もあったが散逸。
『新古今集』以下の勅撰集には114首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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