きりぎりす なくや霜夜の さ筵に
衣かたしき ひとりかもねん
きりぎりす |
名 |
こおろぎ。 |
しもよ | |||
なく | や | 霜夜 | の |
動 | 間投助 | 名 | 格助 |
カ四 (連体形) |
詠嘆 |
【掛詞】寒し | ||
むしろ | ||
さ | 筵 | に |
接頭 | 名 | 格助 |
(語調を整える) | 藁・菅などを編んだ敷物。 |
ころも | |
衣 | かたしき |
名 | 動 |
カ四 (連用形) 袖の片方を敷いて(寝る)。 =一人で寝る。 |
ね | ||||
ひとり | か | も | 寝 | む |
名 | 係助 | 係助 | 動 | 助動 |
疑問 | ナ下二 (未然形) |
推量 「か」の結び(連体形) |
こおろぎが
鳴いている霜が降りる夜の
寒い筵の上で、
私は自分の衣の袖の片方を敷いて
ひとりで寝るのだろうか。
(わびしいなあ。)
出典『新古今集』秋下・518
以下の2つの歌を本歌取り(昔の有名な歌を下敷きにして、新しい歌を詠むこと)したもの。
さむしろに 衣かたしき 今宵もや
われを待つらむ 宇治の橋姫詠み人知らず 古今集・689より【現代語訳】
筵の上で 衣を片敷き独り寝をして、今夜も
私が来るのを待っているのだろうか、宇治の橋姫にも例えたくなる 私の恋人は。
足引の 山鳥の尾の しだり尾の
ながながし夜を ひとりかも寝む柿本人丸 拾遺集・778より【現代語訳】
山鳥の尾の長く垂れ下がっている尾の(ように)
たいへん長い夜を(恋人と離れて)ひとりで寝ることであろうかなあ。
いずれも恋の歌だ。これに晩秋の風物詩「こおろぎ」を結びつけることで、秋の寂寥感を艶やかに歌い上げている。
ちなみに「こおろぎ」が秋になって寝床に近づいてくることは、中国最古の詩集『詩経』に歌われている。これを取り入れたのだろう。
色々な歌を取り入れてピタリと合わせた点が、当時の人たちから高く評価されたようだ。
五月斯螽股を動かす、
六月莎鶏羽振るう、
七月野に在り、
八月宇に在り、
九月戸に在り、
十月蟋蟀我が牀下に入る。『詩経』 七月 より(書き下し文)【現代語訳】
五月はイナゴが足を動かし、
六月は機織り虫が羽を振るわし、
七月は(こおろぎが)野に出てきて、
八月は軒の下にいて、
九月は戸口にいて、
十月はこおろぎが私の寝床の下に入ってくる。
後京極摂政太政大臣(1169 - 1206)
藤原良経。忠通の孫で、九条兼実の次男。
書道で非常に有名で、「後京極様」と呼ばれた。
和歌については藤原俊成に師事。
『新古今集』の仮名序を書き、巻頭の歌にも選ばれるなど、歌人としても大活躍した。
『千載集』以下の勅撰集に319集が入集。