二階の窓から

百人一首 091 きりぎりす


きりぎりす なくや霜夜の さ筵に
衣かたしき ひとりかもねん

後京極摂政太政大臣ごきやうごく せつしやう だいじやうだいじん

品詞分解

きりぎりす
こおろぎ。
しもよ
なく 霜夜
間投助 格助
カ四
(連体形)
詠嘆
【掛詞】寒し
むしろ
接頭 格助
(語調を整える) 藁・菅などを編んだ敷物。
ころも
かたしき
カ四
(連用形)
袖の片方を敷いて(寝る)。
=一人で寝る。
ひとり
係助 係助 助動
疑問 ナ下二
(未然形)
推量
「か」の結び(連体形)

現代語訳

こおろぎが
鳴いている霜が降りる夜の
寒い筵の上で、
私は自分の衣の袖の片方を敷いて
ひとりで寝るのだろうか。
(わびしいなあ。)

作品の解説

出典新古今集しんこきんしゅう』秋下・518

以下の2つの歌を本歌取り(昔の有名な歌を下敷きにして、新しい歌を詠むこと)したもの。

さむしろに 衣かたしき 今宵もや
われを待つらむ 宇治の橋姫

詠み人知らず 古今集・689より

【現代語訳】
筵の上で 衣を片敷き独り寝をして、今夜も
私が来るのを待っているのだろうか、宇治の橋姫にも例えたくなる 私の恋人は。

足引の 山鳥の尾の しだり尾の
ながながし夜を ひとりかも寝む

柿本人丸 拾遺集・778より

【現代語訳】
山鳥の尾の長く垂れ下がっている尾の(ように)
たいへん長い夜を(恋人と離れて)ひとりで寝ることであろうかなあ。

 いずれも恋の歌だ。これに晩秋の風物詩「こおろぎ」を結びつけることで、秋の寂寥感を艶やかに歌い上げている。

 ちなみに「こおろぎ」が秋になって寝床に近づいてくることは、中国最古の詩集『詩経』に歌われている。これを取り入れたのだろう。
 色々な歌を取り入れてピタリと合わせた点が、当時の人たちから高く評価されたようだ。

五月斯螽ししゅう股を動かす、
六月莎鶏さけい羽振るう、
七月野に在り、
八月宇に在り、
九月戸に在り、
十月蟋蟀しっしゅつ我が牀下しょうかに入る。

『詩経』 七月 より(書き下し文)

【現代語訳】
五月はイナゴが足を動かし、
六月は機織り虫が羽を振るわし、
七月は(こおろぎが)野に出てきて、
八月は軒の下にいて、
九月は戸口にいて、
十月はこおろぎが私の寝床の下に入ってくる。

作者

後京極摂政太政大臣ごきょうごく せっしょう だいじょうだいじん(1169 - 1206)

藤原良経ふじわらのよしつね。忠通の孫で、九条兼実の次男。
書道で非常に有名で、「後京極様」と呼ばれた。

和歌については藤原俊成に師事。
『新古今集』の仮名序を書き、巻頭の歌にも選ばれるなど、歌人としても大活躍した。
『千載集』以下の勅撰集に319集が入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
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