見せばやな をじまの蜑の 袖だにも
ぬれにぞぬれし 色はかはらず
み | ||
見せ | ばや | な |
動 | 助 | 終助 |
サ下二 (未然形) |
願望 | 感動 |
をじま | あま | ||
雄島 | の | 蜑 | の |
名 | 格助 | 名 | 格助 |
松島(宮城県) の島の一つ。 |
漁夫。 |
そで | ||
袖 | だに | も |
名 | 助 | 係助 |
類推 |
ぬ | ぬ | |||
濡れ | に | ぞ | 濡れ | し |
動 | 格助 | 係助 | 動 | 助動 |
ラ下二 (連用形) |
強意 | ラ下二 (連用形) |
過去 「ぞ」の結び(連体形) |
いろ | か | ||
色 | は | 変はら | ず |
名 | 係助 | 動 | 助動 |
※紅涙(血の涙)の色 という意味を込めている。 |
ラ四 (未然形) |
打消 (終止形) |
(あなたに)見せたいよ。
雄島の漁夫の
袖でさえ
すっかり濡れてしまっても
色は変わらないのに。
(私の袖は、あなたへの恨みの血の涙で色が変わってしまったよ。)
出典『千載集』恋4・886
『後拾遺集』827番(源重之)の以下の歌を本歌取り(昔の有名な歌を下敷きにして、新しい歌を詠むこと)したもの。
松島や 雄島の磯に あさりせし
あまの袖こそ かくはぬれしか【現代語訳】
松島の雄島の磯で漁をしている
海士ぐらいだろう。 こんなに袖が濡れているのは。
(→つらい恋で、私はこんなに袖を濡らしているんですよ)
重之の歌は、「袖が濡れていること」を詠んでいるが、殷富門院大輔はさらにその先、「袖の色が変わっていること」を詠んでいる。
宮城県の松島群島の中の1つ。松島の光景を詠み上げた歌は従来からありましたが、雄島だけを取り上げて詠み込むことはほとんどありませんでした。
しかし重之の「雄島の磯に〜」の歌により、平安時代末期以降、「雄島」は歌枕として流行しました。
さらに、殷富門院大輔の歌が流行してから、「雄島のあま」+縁語「袖」「濡れ」は頻出する組み合わせとなったのです。
@ 単に涙で色が変わってしまった
A 血の涙で色が変わってしまった
の2つの説があります。
平安時代の人は、おそらくAのほうを連想したことでしょう。
というのも、中国の古典ではたびたび「涙が枯れて、血の涙が出るほど激しく泣く」という表現が登場したからです。『涙で色が変わった、ということは…漢詩でよく出てくる血涙だな?』ということです。
殷富門院大輔(1131? - 1200?)
藤原信成の娘。殷富門院(後白河院の第一皇女)の女房として仕えた。
『千載集』以下の勅撰集に63首入集。当時の一流女流歌人だ。