二階の窓から

百人一首 087 村雨の


村雨の 露もまだひぬ まきのはに
霧たちのぼる あきのゆふぐれ

寂蓮法師じやくれんほつし

品詞分解

むらさめ
村雨
格助
にわか雨。
つゆ
まだ
係助 助動
マ上一
(未然形)
打消
(連体形)
まき
格助 格助
堅い木。
きり た  
立ち のぼる
タ四
(連用形)
ラ四
(連体形)
あき ゆふぐ  
夕暮れ
格助
※体言止め

現代語訳

にわか雨が
(急に降り過ぎて、)露もまだ乾いていない
槙の木の葉に、
霧が立ち上っている
秋の夕暮れだなあ。

作品の解説

出典新古今集しんこきんしゅう』秋下・491

村雨、露、干る、霧が縁語。
秋の夕暮れ時、自然が刻々と変化してゆく様子をあっさりと詠み上げた歌だ。

「村雨」と「槙」は、それぞれ当時の事情を考えると特徴的な題材なので、ちょっとした豆知識として押さえておこう。

豆知識
豆知識

村雨むらさめ

 にわか雨のこと。
 三代集(古今集、後撰集、拾遺集)でわずか2例しか見られず、歌語として定着していない言葉だった。
 しかし源氏物語で4例登場してから、『千載集』(1188)以降徐々に流行し始め、『新古今集』(1205)では5例登場。当時の流行語を取り入れた、と言える。

まき

 堅い木で、材木として用いられた。紅葉しない常緑樹。
 素朴な歌が多い『万葉集』では庶民的な材木として詠み込まれることもあったが、紅葉せずいまひとつ冴えないので、平安時代以降は滅多に歌に詠まれることがなくなった
(※ちなみに、木の種類「槙」ではなく 美化の接頭語「ま」+名詞「木」 と解釈する説もある。)

つまり、流行語の「村雨」と、死語の「槙」を融合したということだ。
秋なので紅葉の色鮮やかさを詠み上げるべきところ、あえて紅葉せず色の無い「槙」に、にわか雨が降って霧が立ちこめている様子を描いている。そんな淡々とした、日本画・水墨画のような景色が思い浮かぶ。

作者

寂蓮法師じゃくれんほうし(1139? - 1202)

俗名は藤原定長。 1150年頃、藤原俊成の養子となり、従五位上・中務少輔まで務めた。
1172年頃、30代で出家して歌道に精進した。
1201年に和歌所寄人となり、『新古今集』の撰者となったが、撰歌途中で逝去。

『千載集』以下、117首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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