歎けとて 月やは物を おもはする
かこちがほなる わがなみだかな
なげ | |
歎け | とて |
動 | 格助 |
カ四 (命令形) |
…と言って。 |
つき | もの | |||
月 | や | は | 物 | を |
名 | 係助 | 係助 | 名 | 格助 |
反語 |
おも | |
思は | する |
動 | 助動 |
ハ四 (未然形) |
使役 「や」の結び(連体形) |
かこ がほ | |
託ち顔 | なる |
名 | 助動 |
嘆き顔。 | 断定 (連体形) |
わ | なみだ | ||
我 | が | 涙 | かな |
名 | 格助 | 名 | 終助 |
連体修飾 の。 |
詠嘆 |
嘆けと言って
月が私に
物思いをさせるのだろうか。(いや、そうではない)
(それを月のせいにして)恨めしい顔をしている
私の涙であることだよ。
出典『千載集』恋5・929
詞書は「月前恋といへる心をよめる」(円位法師)とある。
澄んだ月を前に、思い通りに行かない恋を想って涙を落とす。そんな恋の歌だ。
西行法師は勅撰集に266首入集するなど、一流の歌人であった。
「法師(お坊さん)だというのに、恋の歌とはいかがなものか?」と疑問に思うかもしれない。実は西行は失恋が原因で出家したという説が根強い。
そういう訳もあってか、恋の歌は西行の得意分野だった。
西行法師(1118 - 1190)
俗名は佐藤義清。 北面武士(上皇の警護役)などを務めたが、23歳で出家した。出家の理由には友人の死・失恋などの諸説がある。
法名は円位。 後に西行と号す。 中四国・奥州など各地を行脚して、河内国(現在の大阪府)で没した。
勅撰集には266首入集。特に『新古今集』では94首が選ばれており、入撰数1位。