長からむ 心もしらず くろかみの
みだれてけさは 物をこそ思へ
なが | |
長から | む |
形ク | 助動 |
「長し」 (未然形) |
推量 (連体形) |
こころ | し | ||
心 | も | 知ら | ず |
名 | 係助 | 動 | 助動 |
ラ四 (未然形) |
打消 (連用形) |
くろかみ | |
黒髪 | の |
名 | 格助 |
主格 |
みだ | けさ | ||
乱れ | て | 今朝 | は |
動 | 接助 | 名 | 係助 |
ラ下二 (連用形) |
限定・区別 |
もの | おも | ||
物 | を | こそ | 思へ |
名 | 格助 | 係助 | 動 |
強意 | ハ四 「こそ」の結び(已然形) |
長く続くであろう
心かもしれない
(その心のように)長い黒髪が
寝乱れていて、今朝は(心も乱れて)
物思いに沈むことだ。
縁語
髪 → 長し、 乱る
出典『千載集』恋3・802
男と過ごした翌朝に送る、後朝の歌だ。
「寝乱れる」というのは、もちろん男女の夜の営みで髪が乱れているということ。ただの寝癖ではない。
黒髪が寝乱れている官能的な艶やかさと、その愛を疑い心が乱れてしまうことを、重層的に詠み上げている。
愛を疑う平安時代
なぜ、女は愛を疑って物思いに沈んでいるのか?
当時は男が女のもとへ通う「通い婚」だったので、男の気持ちが変わってしまうと男が通わなくなり、いつの間にか愛が終わってしまうことも珍しくなかった。
「これからも愛する男は、通い続けてくれるのかしら……」と平安時代の女はいつも不安だったのだ。
さて、この歌の第四句で「今朝『は』」という言葉が出てくる。係助詞「は」は、現代語と同じように限定・区別する意味合いがある。
つまりただの朝では無く、この「今朝」はいつもと違う朝だということになる。考えられるのは、
のいずれかであろう。
待賢門院堀河(生没年未詳)
神祇伯 源顕仲の子。
待賢門院(藤原璋子。崇徳院の母)に仕えた。
1142年に出家。西行法師との親交があったようだ。
『金葉集』以下の勅撰集に66首入集。