二階の窓から

百人一首 080 長からむ


長からむ 心もしらず くろかみの
みだれてけさは 物をこそ思へ

待賢門院堀河たいけんもんゐんほりかは

品詞分解

なが  
長から
形ク 助動
「長し」
(未然形)
推量
(連体形)
こころ し  
知ら
係助 助動
ラ四
(未然形)
打消
(連用形)
くろかみ
格助
主格
みだ   けさ
乱れ 今朝
接助 係助
ラ下二
(連用形)
限定・区別
もの おも  
こそ 思へ
格助 係助
強意 ハ四
「こそ」の結び(已然形)

現代語訳

長く続くであろう
心かもしれない
(その心のように)長い黒髪が
寝乱れていて、今朝は(心も乱れて)
物思いに沈むことだ。

ポイント

縁語
長し、 乱る

作品の解説

出典千載集せんざいしゅう』恋3・802

男と過ごした翌朝に送る、後朝きぬぎぬの歌だ。
「寝乱れる」というのは、もちろん男女の夜の営みで髪が乱れているということ。ただの寝癖ではない。
黒髪が寝乱れている官能的な艶やかさと、その愛を疑い心が乱れてしまうことを、重層的に詠み上げている。

豆知識
豆知識

愛を疑う平安時代

なぜ、女は愛を疑って物思いに沈んでいるのか?
当時は男が女のもとへ通う「通い婚」だったので、男の気持ちが変わってしまうと男が通わなくなり、いつの間にか愛が終わってしまうことも珍しくなかった。
これからも愛する男は、通い続けてくれるのかしら……」と平安時代の女はいつも不安だったのだ。

今朝「」の限定・区別

さて、この歌の第四句で「今朝『』」という言葉が出てくる。係助詞「」は、現代語と同じように限定・区別する意味合いがある。
つまりただの朝では無く、この「今朝」はいつもと違う朝だということになる。考えられるのは、

のいずれかであろう。

作者

待賢門院堀河たいけんもんいんほりかわ(生没年未詳)

神祇伯じんぎはく 源顕仲みなもとのあきなかの子。 待賢門院(藤原璋子しょうし。崇徳院の母)に仕えた。
1142年に出家。西行法師との親交があったようだ。

『金葉集』以下の勅撰集に66首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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