二階の窓から

百人一首 076 わたのはら


和田の原 こぎ出て見れば 久堅の
くもゐにまがふ 沖つ白波

法性寺入道前関白太政大臣ほつしやうじのにふだうさきのくわんぱくだいじやうだいじん

品詞分解

 
わたのはら
大海原。
こ   い   み  
漕ぎ 出で 見れ
接助 接助
ガ四
(連用形)
ダ下二
(連用形)
マ上一
(已然形)
既定条件
ひさかた
久堅
格助
枕詞→「雲」
くもゐ
雲居 まがふ
格助
雲のかかっている所。 ハ四
(連体形)
おき しらなみ
白波
格助
所属
(古い格助詞)
※体言止め

現代語訳

大海原に
(船を)漕ぎ出して見渡すと、
遙か向こうに
雲と見違えるような
沖の白波だなあ。

作品の解説

出典詞花集しかしゅう』雑下・382

崇徳すとく天皇の時代、1135年の内裏歌合わせのときに「海上眺望」をお題に出されて詠んだ歌。
堂々としていて大らかな、余情たっぷりの歌である。

また、細川幽斎(1534 - 1610)は『百人一首抄』で、漢詩との類似性を指摘している。

杜甫とほ : 春水船如坐天上
(春水の船は天上に坐するが如し。)

王勃おうぼつ : 秋水共長天一色
(秋水長天と共に一色。)

どちらも、水面と空が混じり合うような、おおらかな光景を詠み上げた歌である。
漢詩にも通じる趣をたたえた歌として、評判の高い歌だったようだ。
藤原定家は『八代集秀逸』にもこの歌を選び入れるなど、非常に気に入っていたことが窺える。

作者

法性寺入道前関白太政大臣ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだじょうだいじん(1097 - 1164)

藤原忠通ただみち
従一位。様々な危機があったものの、鳥羽、崇徳、近衛、後白河と、4代の天皇の関白を歴任し、政治的に生き延び続けた。 1162年に法性寺別業で出家し、円観と号した。

『金葉集』以下の勅撰集に58首入集。
歌人としても評価も高く、「柿本人麻呂にも恥じない歌人だ」「菅原道真よりも優れた漢詩の腕前だ」などとも噂されていた。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
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