契をきし させもが露を 命にて
あはれことしの 秋もいぬめり
ちぎ | を | |
契り | 置き | し |
動 | 動 | 助動 |
ラ四 (連用形) |
カ四 (連用形) |
過去 (連体形) |
つゆ | |||
させも | が | 露 | を |
名 | 格助 | 名 | 格助 |
さしも草。 ヨモギ。 |
連体修飾 |
いのち | ||
命 | に | て |
名 | 助動 | 接助 |
命を繋ぐ頼み。 | 断定 (連用形) |
逆接 |
ことし | ||
あはれ | 今年 | の |
感動 | 名 | 格助 |
ああ。 |
あき | い | ||
秋 | も | 去ぬ | めり |
名 | 係助 | 動 | 助動 |
ナ変 (終止形) |
推量 (終止形) |
約束しておいた
「さしも草の露」という言葉を
命を繋ぐ頼みとして当てにしていたのに、
ああ、今年の
秋も過ぎていくのだろう。
縁語
露 → 置き
出典『千載集』雑上・1026
さしも草とは?
「さしも草の露」って一体何? ということだが、まず「さしも草」(=ヨモギ)が詠み込まれた有名な新古今集の歌を紹介しよう。
なほ頼め しめぢが原の させも草
我が世の中に あらむかぎりは
<現代語訳>
もう任せておきなさい。 標茅原(栃木の地名、ヨモギの名所)の さしも草のように
私がこの世に 居る限りは(思い通りにさせよう。)
標茅原 → (行く筋を)示し
さしも草 → (思い通りに)させる
という言葉遊びだ。
この歌を下敷きに、「さしも草」というのは「任せておけ、思い通りにさせてやる」という言葉の代わりになった。
基俊の息子 光覚が僧の集会で、講師をするかどうかという状況だったので、親の基俊は藤原忠通(会の主催側)に口利きを頼んだ。
その際に忠通は「うまく推薦して、講師にしてやろう、任せておけ」という意味で「さしも草」という言葉を使って答えた。
しかし、その約束が果たされず、基俊は
「任せておけといっていたのに、なんだ、駄目だったじゃないか」
と落胆して恨む、親馬鹿な気持ちを詠み上げたというわけだ。
「さしも草」に隠された意味と、歌が詠まれた状況を知らないとさっぱり分からない歌だろう。
藤原基俊(1060 - 1142)
和漢 両方の才に優れており、『万葉集』に訓点を加えた。
歌人としては遅咲きであったが、1100年の『源宰相中将家歌合』以来、源俊頼とともに歌合わせの判者としても活躍した。
『金葉集』以下の勅撰集に105首入集。