二階の窓から

百人一首 072 音にきく


音にきく たかしの浜の あだ波は
かけじや袖の ぬれもこそすれ

祐子内親王家紀伊いうしないしんわうけのき

品詞分解

おと
きく
格助
評判。噂。 カ四
(連体形)
はま
たかし
【掛詞】 格助 格助
形「高し
+地名「高師」
   なみ
あだ
係助
いたずらに寄せ返す波。
浮気心
そで
かけ
助動 間投助 格助
カ下二(未然形)
波がかかる。
心をかける
打消意志
(終止形)
感動 主格
ぬ  
濡れ こそ すれ
係助 係助
ラ下二
(連用形)
強意 サ変
「こそ」の結び(已然形)

現代語訳

噂に聞く
高師浜に
いたずらに寄せる波には
かかるまい。袖が
(波で)濡れてはいけないから。

そして、浮気心の噂で
高いあなたの言葉には
心をかけるまい。袖が
(涙で)濡れてはいけないから。

ポイント

縁語
音、 高し、 かけ、 濡れ

作品の解説

出典金葉集きんようしゅう』恋下・469

1102年に行われた堀河院ほりかわゐん(在位:1087〜1107)の艶書合けそうぶみあわせで、
藤原俊忠が詠んだ以下の歌に対する返歌。

人しれぬ 思ひ有磯ありその 風に
よるこそ いはまほしけれ

中納言俊忠

<現代語訳>
人知れず 思っているのを有磯の 浦風に
波が寄る夜に 言ってしまいたいものだ。

※こちらの歌も縁語(よる)が登場

これに対して紀伊は、「あだ波」(いたずらに寄せ返す波)を浮気心とかけて、さらに波の縁語(音・高し・かけ・濡れ)を詠み込み、見事に突き返した。

【補足】 艶書合けそうぶみあわせとは

艶書けそうぶみは一般的には「懸想文」とも書き、恋文のことです。
艶書合けそうぶみあわせは、男女で別れて恋の歌をやり取りする催し事で、以下の2つのパートに分かれます。

前度ぜんど」:男から女への求愛の歌と、女から男への返歌。
後度ごど」:女から男への恨みの歌と、男から女への返歌。

72番「音にきく〜」歌は、前度での返歌です。
これだけ技巧に凝った歌を詠み上げたときは、艶書合もさぞかし盛り上がったことでしょう。

作者

祐子内親王家紀伊ゆうしないしんのうけのきい(生没年未詳)

藤原師長の娘か。 紀伊守 藤原重経の妻・あるいは妹?
後朱雀ごすざく天皇の第一皇女 祐子内親王に仕え、一宮紀伊ともよばれた。
記録があまり残っておらず、伝未詳。

『後拾遺集』以下の勅撰集には31首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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