二階の窓から

百人一首 067 春のよの


春のよの 夢ばかりなる 手枕に
かひなくたゝむ 名こそ惜けれ

周防内侍すはうのないし

品詞分解

はる
格助 格助
 
ゆめ
ばかり なる
副助 助動
程度 断定
(連体形)
たまくら
手枕
格助
腕枕。
かひ    た  
甲斐なく 立た
形ク 助動
(連用形)
かいな」とも掛ける。
タ四
(未然形)
推量
(連体形)
を   
こそ 惜しけれ
係助 形シク
強意 「こそ」の結び(已然形)

現代語訳

春の夜の
夢のような(儚い仮初めの)
(あなたの)手枕(を借りたばかり)に
何の甲斐も無く立ってしまうであろう
(私の)浮き名が惜しいことだよ。
(=だから、あなたの手枕なんて借りませんよ

作品の解説

出典千載集せんざいしゅう』雑上・964

詞書を読めば、状況が理解できるだろう。

二月ばかり月あかき夜、二条院にて人々あまたゐあかして物語などし侍りけるに、内侍周防よりふして、枕をがなとしのびやかにいふをききて、大納言忠家ただいえこれを枕にとてかいな御簾みすの下よりさしいれて侍りければ、読み侍りける

<現代語訳>

旧暦の2月頃、月の明るい夜、二条院で人々がたくさん夜を明かして物語りなどをしていましたときに、周防内侍が物に寄りかかって横になって、「枕があればなあ。」とこっそり言うのを聞いて、大納言の藤原忠家が「これを枕に。」と言って腕を御簾の下から挿し入れ申し上げたので、詠みました。

周防内侍のとっさの才知が光る歌だ。
周防内侍が「枕があればなあ。」とぼそっと言ったときに、忠家が腕を差し出してきた(チャラい)ので、すかさず「かいな」と「甲斐かいし」を掛けて、
『夢のような仮初めの関係なんでしょうから、どうせあなたの腕を借りても、何の甲斐も無く私の浮き名が立ってしまうだけよ
と、これを撥ね除けた。

参考:大納言忠家からの返歌

契りありて 春の夜深き 手枕を
いかがかひなき 夢になすべき

<現代語訳>

深い縁があって
春の深夜に
(私が挿し入れた)手枕を
どうして甲斐のない
夢だとしてしまうのか。

「そんなこと言わないでよ、これも深い縁じゃない」という程度の歌で、周防内侍の機知には遠く及ばない。

作者

周防内侍すおうのないし(生年未詳 - 1109?)

周防守すおうのかみ 平棟仲たいらのむねなかの娘。名は仲子。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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