二階の窓から

百人一首 066 諸共に


諸共に 哀と思へ 山桜
花より外に 知人もなし

大僧正行尊だいそうじやうぎやうそん

品詞分解

もろとも  
諸共に
どちらも ともに。
あはれ おも  
思へ
格助
しみじみとした気持ち。 ハ四
(命令形)
やまざくら
山桜
体言での呼びかけ。
(三句切れ)
はな ほか
より
格助 格助
範囲の限定
〜以外。
し   ひと
知る なし
係助 形ク
ラ四
(連体形)
(終止形)

現代語訳

(私と同じように)お前も一緒に
しみじみと(懐かしいと)思ってくれ、
山桜よ。
花以外には
(私の気持ちを)分かる人もいないのだ。

作品の解説

出典金葉集きんようしゅう』雑上・512

詞書には「大峰に思ひもかけず桜の咲きたりけるを見て」とある。
奈良県の南部にある大峰山おおみねさんで修行をしているときに、山桜を見て詠んだ歌だ。
修行中、ふと現れた自然の美しさをしみじみと感じる気持ちが、率直に表現されている。

さて、この詞書の「思ひもかけず」というのが、この歌のポイントだ。
「思いがけず」の解釈には以下の2つのパターンがある。

  1. 季節が思いがけなかった
     季節外れの桜だったという説。桜の時期を過ぎた卯月に詠まれたとする。
  2. 場所が思いがけなかった
     緑一色の山の中に桜の花があったという説。突然桜が現れた驚き。

『行尊大僧正集』には2首前の詞書に「思ひかけぬ山中に、まだつぼみたるもまじりて咲きて侍りしを、風に散りしかば」とあって、この歌が続いている。
連続しての歌だとすれば、山中という思いがけない場所だった、ということだ。

また、この歌は出典に記載のとおり、「春」部ではなく「雑」部に置かれている。
単純に春の景色を詠んだ歌というわけではなく、修行の中での宗教的・崇高な雰囲気を詠んだ歌、として解釈されていたのだろう。

作者

大僧正行尊だいそうじょうぎょうそん(1055 - 1135)

小一条院こいちじょういん敦明あつあき親王(三条天皇の皇子)の孫。源基平みなもとのもとひらの子。
園城寺おんじょうじ明尊みょうそんの弟子として修行し、1123年には座主(天台宗のトップ)に、また1125年に大僧正(僧官のトップ)になった。
これだけ出世したことからも分かるように、霊験あらたかで公家の信頼も篤かったようだ。

歌人としても有名であり、『金葉集』以下の勅撰集に48首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
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