諸共に 哀と思へ 山桜
花より外に 知人もなし
もろとも |
諸共に |
副 |
どちらも ともに。 |
あはれ | おも | |
哀 | と | 思へ |
名 | 格助 | 動 |
しみじみとした気持ち。 | ハ四 (命令形) |
やまざくら |
山桜 |
名 |
体言での呼びかけ。 (三句切れ) |
はな | ほか | ||
花 | より | 外 | に |
名 | 格助 | 名 | 格助 |
範囲の限定 〜以外。 |
し | ひと | ||
知る | 人 | も | なし |
動 | 名 | 係助 | 形ク |
ラ四 (連体形) |
(終止形) |
(私と同じように)お前も一緒に
しみじみと(懐かしいと)思ってくれ、
山桜よ。
花以外には
(私の気持ちを)分かる人もいないのだ。
出典『金葉集』雑上・512
詞書には「大峰に思ひもかけず桜の咲きたりけるを見て」とある。
奈良県の南部にある大峰山で修行をしているときに、山桜を見て詠んだ歌だ。
修行中、ふと現れた自然の美しさをしみじみと感じる気持ちが、率直に表現されている。
さて、この詞書の「思ひもかけず」というのが、この歌のポイントだ。
「思いがけず」の解釈には以下の2つのパターンがある。
『行尊大僧正集』には2首前の詞書に「思ひかけぬ山中に、まだつぼみたるもまじりて咲きて侍りしを、風に散りしかば」とあって、この歌が続いている。
連続しての歌だとすれば、山中という思いがけない場所だった、ということだ。
また、この歌は出典に記載のとおり、「春」部ではなく「雑」部に置かれている。
単純に春の景色を詠んだ歌というわけではなく、修行の中での宗教的・崇高な雰囲気を詠んだ歌、として解釈されていたのだろう。
大僧正行尊(1055 - 1135)
小一条院・敦明親王(三条天皇の皇子)の孫。源基平の子。
園城寺の明尊の弟子として修行し、1123年には座主(天台宗のトップ)に、また1125年に大僧正(僧官のトップ)になった。
これだけ出世したことからも分かるように、霊験あらたかで公家の信頼も篤かったようだ。
歌人としても有名であり、『金葉集』以下の勅撰集に48首入集。