二階の窓から

百人一首 065 恨みわび


恨みわび ほさぬ袖だに ある物を
恋にくちなむ 名こそをしけれ

相模さがみ

品詞分解

うら  
恨み わび
補動
マ四
(連用形)
〜しあぐねる。
バ上二
(連用形)
ほ   そで
干さ だに
助動 副助
サ四
(未然形)
打消
(連体形)
〜さえ。
もの  
ある 物を
接助
ラ変
(連体形)
逆接
こひ く  
朽ち
格助 助動 助動
タ上二
(連用形)
完了
(未然形)
推量
(連体形)
を    
こそ 惜しけれ
係助 形シク
強意 「こそ」の結び(已然形)

現代語訳

(あなたがつれない態度なのを)恨む気力もなくなり、
乾くひまも無い袖でさえ
(惜しく)あるというのに、
恋に朽ちてしまうであろう
(私の)浮き名が惜しいことこの上ないよ。

作品の解説

出典後拾遺集ごしゅういしゅう』恋4・815

永承えいしょう6年(西暦1051年)5月5日 内裏だいり根合ねあわせで詠まれた歌。
根合せとは、端午の節句に菖蒲しょうぶの根の長短を比べあう遊戯のこと。和歌を詠み添えて勝負を競うことも行われた。(菖蒲と勝負の駄洒落か。)

この歌は「恋に破れて私の名が朽ちてしまう」ことを嘆いていることは間違い無いのだが、
ほさぬ袖だにあるものを」の解釈が難しい。解釈としては以下の3つがある。

@ 涙で乾かぬ袖さえ朽ちないというのに、私の名が朽ちてしまう。
 「朽ちない袖」⇔「朽ちる名」の対比。

A 涙で乾かぬ袖さえ朽ちてしまいそうだというのに、その上私の名まで朽ちてしまう。
 「朽ちる袖」⇔「朽ちる名」の、朽ちやすさの対比。

B 朽ちる袖も惜しいが、朽ちる我が名はなおのこと惜しい。
 「朽ちる袖」⇔「朽ちる名」の、惜しさの対比。

藤原定家が選んだ『八代抄』では、「涙で袖が朽ちてしまう」ことを嘆いた歌の中にこの歌が入っており、おそらく定家はAかBの説をとっていたと思われる。
ちなみに上の現代語訳では、B説を採用して現代語訳した。

作者

相模さがみ(995? - 1061?)

実父は不詳。源頼光の養子。
1020年に相模守 大江公資きんよりと結婚し、相模と呼ばれるようになった。
その後夫の任地相模へ随行したが、1025年に離婚。

歌人としての腕前は相当のもので、様々な歌人に対して指導を行っていたようだ。和泉式部などとの交流もあった。
『後拾遺集』のみでも40首が入集しており、和泉式部に次いで多い。勅撰集全体では109首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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