ありま山 ゐなの篠原 風吹ば
いでそよ人を わすれやはする
ありまやま |
有馬山 |
名 |
【歌枕】 現在の神戸市の山。 |
ゐな | ささはら | |
猪名 | の | 篠原 |
名 | 格助 | 名 |
兵庫県の地名。 【掛詞】「否」 |
かぜ | ふ | |
風 | 吹け | ば |
名 | 動 | 接助 |
カ四 (已然形) |
順接 |
【掛詞】「そよ」(笹がそよぐ音) | ||||
いで | そ | よ | 人 | を |
感 | 代名 | 助 | 名 | 格助 |
勧誘・決意 | 感動 |
わす | |||
忘れ | や | は | する |
動 | 係助 | 係助 | 動 |
ラ下二 (連用形) |
反語 | サ変 「や」の結び(連体形) |
有馬山から
猪名の篠原に
風が吹くので
笹の葉がそよぐが、そうだよ、あなたのことを
忘れることがどうしてあろうか。(いや、忘れることはない。)
出典『後拾遺集』恋2・709
訳してみても、いまいち何を詠っているのかピンと来ないだろう。
詞書には
かれがれなる男の、おぼつかなくなどいひたるによめる
<現代語訳>
離れがちになった男が、(私の気持ちを)疑うようなことを言ったので詠んだ
とある。
「猪名」は「否」との掛詞でもあり、「いいえ、そんなことはない。気持ちが離れたのはあなたでしょう」とピシャリと否定してしっぺ返しにした歌だ。
上三句は「そよ」へと導くための序詞。
なぜ「有馬山」が歌枕として選ばれたのかはよく分かっていない。(相手の男と縁のある土地なのか?)
「笹原」といえば夕刻に風が吹くイメージがあり、また平安時代には「猪名」は晩秋や冬の歌が多かった。
冷え冷えとした男女関係の暗示として、猪名の篠原が題材として選ばれたのかもしれない。
大弐三位(999?-没年未詳)
藤原宣孝と紫式部の子。 名前は賢子。
一条院の女院彰子に仕え、越後弁と呼ばれた。1024年に藤原兼隆の妻となった。 翌年には後冷泉天皇の乳母ともなった。
1037年頃、高階成章と再婚。 夫が大宰大弐を務めたため、大弐三位と呼ばれた。
『後拾遺集』以下の勅撰集に37首入集。