かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしもしらじな もゆる思ひを
かく | と | だに |
副 | 格助 | 副助 |
このように。 | 最小限 〜だけでも。 |
え | や | は | いぶき | の |
副 | 係助 | 係助 | 【掛詞】 | 格助 |
(反語とセットで) 不可能 |
反語 | ハ四動「言ふ」(連体形) +名「伊吹」(地名) |
ぐさ |
さしも草 |
名 |
【艾草】 序詞→「さしも」 |
し | ||||
さ | しも | 知ら | じ | な |
副 | 副助 | 動 | 助動 | 終助 |
指示 そう。 |
強意 | ラ四 (未然形) |
打消推量 (終止形) |
感動 |
おも | ||
もゆる | 思ひ | を |
動 | 名【掛詞】 | 格助 |
ヤ下二 (連体形) |
「思ひ」 +「火」 |
このように(恋い慕っている)とさえも
どうして言うことができようか、いや言えない。
伊吹山のさしも草のように、
そうとは、あなたは知るまいよ。
私の燃える火のような(恋の)想いを。
ヨモギのこと。低温で燃えるため、お灸としても使われる。
伊吹山は、美濃国(現在の岐阜県)と近江国(滋賀県)の間にある山。薬草の産地として有名だった。
出典『後拾遺集』恋1・612
詞書には「女にはじめてつかはしける」とある。
想いを寄せていた女に対して最初に送った、恋心を打ち明けた歌ということになる。
掛詞、序詞、四句と五句の倒置など、とにかく技巧に凝った歌だ。
当時は技巧的な歌が多く、競うようにそういった歌が詠まれていたが、その中でも抜きん出ていたようだ。
あまりにも技巧に凝ることに執着しすぎているのではないか、という警戒・批判もあった。(藤原為家など)
藤原実方朝臣(生年未詳 -999)
藤原定時の子。 父が早逝したため、叔父の大納言・藤原済時の養子となった。
円融天皇・花山天皇から重用されて順調に昇進を続けていたが、995年に陸奥守に左遷されてしまい、任地で死没。
左遷の理由は不明だが、天皇の御前で藤原行成と口論したため、など色々な説話が残っている。
勅撰集には67首入集。 とくに『新古今集』には12首入集しており、藤原公任(6首)を大きく上回る。