二階の窓から

百人一首 051 かくとだに


かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしもしらじな もゆる思ひを

藤原実方朝臣ふぢはらのさねかたあそん

品詞分解

 
かく だに
格助 副助
このように。 最小限
〜だけでも。
 
いぶ
係助 係助 【掛詞】 格助
(反語とセットで)
不可能
反語 ハ四動「言ふ」(連体形)
+名「伊吹」(地名)
    ぐさ
さしも
【艾草】
序詞→「さしも」
し  
しも 知ら
副助 助動 終助
指示
そう。
強意 ラ四
(未然形)
打消推量
(終止形)
感動
おも  
もゆる
名【掛詞】 格助
ヤ下二
(連体形)
「思ひ」
+「火」

現代語訳

このように(恋い慕っている)とさえも
どうして言うことができようか、いや言えない。
伊吹山のさしも草のように、
そうとは、あなたは知るまいよ。
私の燃える火のような(恋の)想いを。

補足:「さしも草」とは?

ヨモギのこと。低温で燃えるため、お灸としても使われる。
伊吹山は、美濃国みののくに(現在の岐阜県)と近江国おうみのくに(滋賀県)の間にある山。薬草の産地として有名だった。

作品の解説

出典『後拾遺集』恋1・612

詞書には「女にはじめてつかはしける」とある。
想いを寄せていた女に対して最初に送った、恋心を打ち明けた歌ということになる。

掛詞、序詞、四句と五句の倒置など、とにかく技巧に凝った歌だ。
当時は技巧的な歌が多く、競うようにそういった歌が詠まれていたが、その中でも抜きん出ていたようだ。
あまりにも技巧に凝ることに執着しすぎているのではないか、という警戒・批判もあった。(藤原為家など)

作者

藤原実方朝臣ふぢはらのさねかたあそん生年未詳 -999)

藤原定時の子。 父が早逝したため、叔父の大納言・藤原済時の養子となった。
円融天皇・花山天皇から重用されて順調に昇進を続けていたが、995年に陸奥守に左遷されてしまい、任地で死没。
左遷の理由は不明だが、天皇の御前で藤原行成と口論したため、など色々な説話が残っている。

勅撰集には67首入集。 とくに『新古今集』には12首入集しており、藤原公任(6首)を大きく上回る。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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