二階の窓から

百人一首 043 あひ見ての


あひ見ての 後の心に くらぶれば
むかしは物を おもはざりけり

権中納言敦忠ごんぢゅうなごんあつただ

品詞分解

あ  
逢ひ
接助 格助
ハ四
(連用形)
マ上一
(連用形)
のち こころ
格助 格助
 
くら   
比ぶれ
接動
バ下二
(已然形)
順接
むかし もの
係助 格助
区別・強調
おも  
思は ざり けり
助動 助動
ハ四
(未然形)
打消
(連用形)
詠嘆
(終止形)

現代語訳

逢って見て(=男女の関係を結んで)
それから後の(あなたを想う)心に
比べると
以前は物思いと言っても
思っていないようなものだったなあ。

作品の解説

出典『拾遺集』恋2・710

切ない恋をし始めたばかりの気持ちを詠んだ、爽やかな後朝きぬぎぬの歌。
藤原公任は『三十六人撰』でこの歌を選び、敦忠の代表作としていた。
『拾遺抄』(公任 著)にも「はじめて女のもとにまかりて又の朝につかはしける」(初めて女のところに参上して、次の朝に遣った一句)と紹介しており、明らかに後朝きぬぎぬの歌として紹介している。

いっぽう、全く別の解釈もできるので、そちらも紹介しておこう。
「昔は」というフレーズから、この歌は逢ってからかなり後に詠まれたとする説だ。
「逢ってから後、逢えないことのつらさ・心変わり・恋路を邪魔するもの、などを通じて、苦しい物思いを覚えた」と解釈すると、全く後朝の歌では無くなってしまう。(契沖・『改観抄』など)

敦忠の若い頃に詠まれた歌という背景を考えると、後朝の歌という説がおそらく正しいのだが、
歌だけを見ると、全く違う解釈ができるという面白い歌だ。

作者

権中納言敦忠ごんぢゅうなごんあつただ(909-943)

藤原敦忠。左大臣時平の三男。三十六歌仙のひとり。
942年に従三位 権中納言となる。琵琶の名手としても有名で、枇杷中納言とも呼ばれた。
『大鏡』では「よにめでたき和歌の上手」と評され、『大和物語』には右近らと交際のあったことが見える。
勅撰和歌集に30首入集。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
商品パッケージの寸法: 15 x 10.6 x 1.4 cm
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