二階の窓から

百人一首 033 久堅の


久堅の ひかりのどけき 春の日に
しづ心なく 花のちるらむ

紀友則きのとものり

品詞分解

ひさかた
久堅
格助
【枕詞】→光・日
ひかり
のどけき
形ク
(連体形)
はる
格助 格助
   ごころ
しづ心 なく
形ク
「なし」
(連用形)
はな ち  
散る らむ
格助 助動
ラ四
(終止形)
原因推量
(終止形)

現代語訳

日の光がのどかに射している
春の日に
落ち着きも無く
花(=桜)はどうして散るのだろうか。

作品の解説

出典『古今和歌集』春下・84

文字通りに解釈すれば、「慌ただしく散っていく桜の花びらが、のどかな春の昼下がりを乱していることをなじっている」歌であるが、

そうしたぎこちない難詰の心は、ゆるやかに流れゆく『しらべ』の波にかくされてしまって、風なきに舞うがごとくもかつ散る花をながめながら、霞の中をただよう陽光に包まれて、爛熟した春を味わいつつある歌人の心持ちがさながらに浮かび出ている。
(吉沢義則, 1931年)

とあるように、流麗な歌から 暖かな春の日に桜の花びらが舞う、美しい光景が思い浮かぶ。作者の友則も、そんな風景を意識して詠んだと思われる。

ちなみにこの歌は平安時代にはあまり有名な歌ではなかったようだ。 平安時代の歌人、紀貫之・藤原公任・藤原俊成らの編んだ歌集では、紀友則の作品としてこの歌が選ばれることはほとんど無かった。
ところが藤原定家は、多くの自身の秀歌撰にこの歌を選び入れた。 この歌は定家によって再発見・評価されたと言えるだろう。

作者

紀友則きのとものり生年未詳 -905?)

紀貫之の従兄。
寛平御時后宮歌合かんぴょうのおんとききさいのみやうたあわせ」(889年頃)に先立つ「寛平内裏菊合かんぴょうだいりきくあわせ」に加わって以来、歌壇で活躍。貫之、躬恒より先輩格であった。

『古今和歌集』の撰者であったが、完成前に死没。 16巻に「紀友則が身まかりにける(=亡くなった)時によめる」という詞書で貫之と躬恒の歌が載っている。

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島津 忠夫 (翻訳)
文庫: 317ページ
出版社: 角川書店; 新版 (1999/11)
言語: 日本語
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