二階の窓から

010 これやこの


これやこの 行くも帰るも わかれては
しるもしらぬも 相坂の関

蝉丸せみまる

品詞分解

これ
代名 間投助 代名 格助
 
ゆ   かへ  
行く 帰る
係助 係助
カ四
(連体形)
ラ四
(連体形)
わかれ
接助 係助
ラ下二
(連用形)
しる しら
係助 助動 係助
ラ四
(連体形)
ラ四
(未然形)
打消
(連体形)
せき
あふさか
格助
【掛詞】
逢ふ坂+相坂

現代語訳

これがまあ
あの(都から東へ)行く人も(見送って都へ)帰る人も
ここで別れて、
また知っている人も知らない人も
ここで逢うという相坂の関なのだなあ。

作品の解説

出典『後撰集』雑一・1089

「これやこの」「行くも帰るも」「しるもしらぬも」と畳みかけるような調子で、リズム感のよい歌である。
この語法は当時の流行であったが、特にこの蝉丸の歌が有名となった。

しかし流行り物すぎたためか、長らく秀歌として取り扱われることはなかった。
ところが中世に入って『平家物語』や『徒然草』などで無常観が流行してから、「すべてのものが移り変わり続ける」という視点によってこの歌が再評価されるようになったのである。

作者

蝉丸せみまる(生没年未詳)

逢坂の関のほとりに住んでいた隠者とされているが、確かな伝承はない。
そもそも、逢坂の関の近くに住んでいたなら、関のことを「これやこの」(これがまあ、あの)なんて言わないだろうから、怪しい話だ。

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